苦労の末復活して18年、昔ながらの豆腐店九郎助 村田豆腐店

No.20

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一度は途絶えた、昔ながらの希少な製法で人気の豆腐店

小松市波佐谷町。

まわりは山に囲まれ田園風景がひろがる土地に、昔ながらの釜で炊き上げる製法で豆腐を作るお店がある。それが、今回お邪魔させて頂く「村田豆腐店」さんだ。

取材時は秋と言う事もあり、山々に囲まれたこの地域ではクマの出没も多いらしいので、忍者のごとく背後を気にしながら突撃いたしました!

(取材:絶メシ!いしかわ調査隊 ライター名:美緑トモハル)

代を飛ばして引き継ぐ技術とその覚悟

一見、普通の一軒家のような印象。あ。
(意図せず、韻を踏んでしまった恥ずかしさ・・・)

こんにちはー。出て来てくれたのは、男前な店主、村田さんだ。

ライター美緑

今日はよろしくお願いします!

あのー、この薪、豆腐作りのためのものですか?

村田さん

そうやね。やってみる??

ライター美緑

いいんですか!?やってみたい!!

簡単なレクチャーを受けて、初・薪割り、初・斧!記念すべき日です。

ヨイショーー!!!!

・・・あれ?なかなか難しい。

早々に飽きたので、すぐさまインタビューへと切り替えた。

ライター美緑

改めましてよろしくお願いします!

早速なんですけど、この村田豆腐店さんは何代くらい続いているんですか?

村田さん

初代は俺のじいちゃんのお父さんのお母さんになるね。

じいちゃんからしたら婆ちゃんが村田家に嫁いでから始めたみたい。きっかけは分からないけど、たぶん生活の為やと思う。その時は、ここじゃなくて別の場所でやっとった。

ライター美緑

お婆ちゃんから!では村田さんは4代目になるんですよね?

おじいちゃんから代を引き継いだことになるんですけど、お父さんではなく村田さんがなぜ?

村田さん

親父は役所勤めだったからか継がなかった。俺が継いで今年で18年目になるんかな。

じいちゃんの代で一回途絶えたんやけど、
親父が仕事の長期休みの時に豆腐を作って、近所や友人に配ったり売ったりしとって。

ライター美緑

じゃあ、お父さんは、豆腐作りを全くやってなかったわけじゃなかったんですねー。

村田さん

うちの親父は、爺ちゃんの手伝いをやっとったんで、豆腐作りのノウハウは知っとった。

高校生ぐらいの時から親父から将来やってみんか?って話はされとって、こんな風に豆腐を作っとるところも珍しかったから、やってもいいかなーとは思っとって。

大学の夏休みなんかに帰って来た時には、親父が豆腐の仕事しとったから、それを手伝っとるうちに、ゆくゆくはやってみたいなと言う気持ちになったというか。

そこから、豆腐店を継ぐことを見据えて、2年ほど東京の食品メーカーでパンの製造をしていた村田さん。

仕事をしながらも、いずれ石川に戻るのなら早い方がいいのではと思い始め、当時お付き合いしていた今の奥さんにお店を継ぐから一緒に石川に来て欲しいと伝えたんだそう。

ライター美緑

奥さんは、小松で豆腐店を一緒にやって欲しいと言われたときはどう思ったんですか?

奥さん

いやー、やりたくはなかったですね。

びっくりしました。何も考えずに来ちゃったんで、来てから大変だなというのはありました。

村田さん

嫁さんは僕が辞めてから1年間その職場で頑張ってくれてて、僕は先に石川に戻ってきて、1年間パン屋さんでバイトしながら、週末は豆腐の勉強して。

ライター美緑

お豆腐の勉強は、別の豆腐屋さんでですか?

村田さん

いや、週末に親父の豆腐作りを手伝いながら覚えていった。結局、うちの豆腐作りは他の豆腐屋さんに行っても学べんから。

村田豆腐店さんの製造方法は、薪を使い、大豆を直火で炊き上げる昔ながらの製法にこだわっている。それは、初代のお婆ちゃんから引き継いだ製法であり、今の村田豆腐店の最大の特長なのだ。

現在では暮らしが楽になると同時に電気やガスが主流となり、スチームで時間を掛けずに蒸すお店が多く、この製法で作られている豆腐店は希少で日本でもほとんど見かけない。

じっくりと時間をかけて豆を炊くことによって豆の生臭い感じがなくなるそうだが、薪という性質上火加減もかなり難しく経験を積んできた今でも多少の試行錯誤はあると言う。

ライター美緑

そんな大変な作業であっても、この製法にこだわるのは?

村田さん

この村田豆腐店の一番の特長で、引き継いできた技術やからね。そこは守りたい。

ライター美緑

技術の継承ですね。卸しているお店では、売り切れてしまう事も多いと聞いたんですけど。

村田さん

そうやね。いろんな方に買ってもらえるので、この仕事にやりがいを感じますよね。

ライター美緑

油揚げもすごく人気だとか。こちらも先代から引き継いだ商品なんですか?

村田さん

そうですね。油揚げはうちの爺ちゃんのときから人気で、有名やったんですよ。

ライター美緑

今は奥さんが作られてるんですよね?油揚げを作るなんて初めての事だったと思うんですけど苦労しました?

奥さん

まだ苦労してるんですけどね(笑)最初の頃は全部失敗することもあったんです。

でも油揚げの生地は旦那が作るんで、私だけが悪いんじゃない!生地も悪いんだって生地のせいにしたりしてました(笑)

ライター美緑

痛み分けだ(笑)今は自分で、油揚げ作るのうまいな、、、と思う瞬間あったりしますか?

奥さん

(笑)それはまあまあまあ・・・最近は少し。

ライター美緑

18年ですもんね。

この18年でお子さんも2人。子育てをしながらの試行錯誤は大変だった。

夜中、奥さんが仕事場に行くため家から出ると、子供が後をついて来てしまう。

仕事場に置いてあるベビーカーに乗せてあげると、側にいることが分かるのか安心して眠りにつく。そんな日々が続いていたそう。

我が道を行くために追求した豆腐と
油揚げの美味しさ。店主の力強い想いとは

ライター美緑

大変な時期もあったけど、今では評判の油揚げとなっているんですね。

村田さん

そうですね。でも、先代からの油揚げっていうのはすごくハードルが高かったんです。

一番苦労したし、まわりからもいろいろ言われました。爺ちゃんの代の時の常連さんは村田の油揚げはこうやからっていう。

でもそんな昔からのお客さんが応援してくれて、また来てくれたりしてくれてますね。

ライター美緑

まわりも厳しい意見を言いつつ、支えてくれているんですね。

油揚げとお豆腐。味の継承と言うのはしてるんですか?

村田さん

いや、俺は俺のやり方で、自分の味を出していくんやっていう気持ちですね。

ライター美緑

厳しい意見を言われたときに、おじいちゃんの味に近づけようとは思わなかった?

村田さん

俺はじいちゃんにはなれないし、 俺は俺のやり方しか出来んから、 作り方の技術とか伝統は受け継いだけど、味の継承はそれぞれやと思っとる。

やし、爺ちゃんの味とは別物としてやっていこうと。だから自分の好きな味を追求しとるね。

ライター美緑

今の味は、頭で考えてる味とほぼ一緒なものが出来てるんですか?

村田さん

そう。これを作りたかった。爺ちゃんが使っとった材料をまず変えて、大豆もにがりも。

全部変えたわけじゃないけど、にがりの配合だったりとかは変えたりして今の味に。

にがりは珠洲の天然にがりを使用し、大豆も小松産にこだわっている。

豆腐の90%は水分で出来ていて、水の良さが美味しい豆腐の条件としても挙げられるが、ここで使われるのはタンタン生水と呼ばれ親しまれている湧き水であり、これは初代から変わらずに一度も枯れることなくこの地に湧き出ている名水なのである。

そしてそれは、お店の片隅でも枯れることなく常に流れ出ている。

ライター美緑

お店の一番人気のお豆腐は?

村田さん

夏はおぼろ豆腐、で油揚げやね。

木綿豆腐はちょっと特徴的で、まわりはしっかりしてるんやけど、中は絹のような柔らかさがある。豆腐、食べてみる?

ライター美緑

はいっ!!!

豆腐のパックがスーパーで見かけるものとは違ってとても大きい。

おぼろ豆腐は塩やポン酢、めんつゆをかけて頂くのがオススメらしいが、今回はそのまま!

ライター美緑

いただきます!おーーーっ。ふるふる・・・(ひとくち)あ。なんだか少し甘みを感じる!

これ塩で食べたいです!!豆乳花みたいに甘くしても食べられそう。

これぞ村田家の豆腐作り。
技術の継承と同じくらい大切な事

ライター美緑

最後にお伺いしたいんですけど、今後、このお店をお子さんに後継してこの技術を残したいという思いは?

村田さん

子供に継承して欲しいっていう思いは・・・ありません。

2人とも女の子やし、まぁ、婿さん貰ってまで継承もせんなんかなって。

ライター美緑

そしたら、仮に血縁関係が何もなくて、このお店を継ぎたいっていう人が現れたら?

村田さん

いやー、それはしない。やっぱり、代々村田の人間やからこれでやっとるっていうのが

あるし。そこは譲れないですね。

ライター美緑

そうなんですね。村田さんのお父さんがおじいちゃんの手伝いをしていたからこそ、この技術が継承されたと思うんですよね。

なので娘さんが継がなくても、お手伝いをしてもらうとかはどうですか?いつか継ぎたいという気持ちが芽生えた時に役立つと思うんですけど。

村田さん

そうなんですけど、無理やりやらせるのも違うかなって。でもそういうところも少しずつ真剣に考えていかんなんタイミングは来ると思う。

この作り方って言うのは、言ってみたら村田家の人間しか出来んのやっていうプライドもあって、オンリーワンなわけやし、こんなこと出来るのは俺たちしかおらんのやぞってそういう思いはある。

お豆腐の柔らかさとは反してとても硬い意志を持つ、男気溢れる村田さん。

時代と共に無くなっていく技術の儚さ。この手間暇かけて出来上がっていく村田豆腐店さんのお豆腐や油揚げをいつまで口に出来るのか。

そう思うと、一段と心に染みる味だ。お土産に頂いたおぼろ豆腐と油揚げを早速食卓に。

油揚げはパリパリで、おぼろ豆腐の甘みは、塩で最高潮の盛り上がり。

地産地消のおいしさと希少な技術を噛み締めたのでありました。

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